マイクプリアンプのタイプは大まかに大別すると3つの種類があります。
これはアンプの増幅部分に使われる部品構成の違いです。
それぞれマイクプリアンプの音色の方向性に多大な影響を与える部分です。
どんな機材がどんな部品で出来上がっているのかを知ると、よりピンポイントなマイクプリアンプ選びが可能になるので、知っておいて損にはなりません!
マニアックな知識ですが、そんな記事を書かせていただきます。
目次
真空管マイクプリアンプは音がクリアで立体的
真空管を使ったマイクプリアンプは、リアルな音像を表現することを非常に得意としています。
1万円台で売られている真空管マイクプリアンプはこの限りではありません。
コストを抑えた真空管製品は新品でも残念なものが多くなる傾向にあり、個人的には録音用途にあまりおすすめしません、、、(過去の体験談)。
これはしっかりと予算をかけて設計された真空管マイクプリアンプの話であります。
代表的なものだとTelefunken V76やV72といった伝説的なヴィンテージマイクプリアンプ。
1x TAB V76M (TELEFUNKEN) „NICHT GETESTET / NOT TESTED” | eBay
半世紀以上前に作られた化石のような機材ですが、現在でもマイクプリアンプ界のロールスロイスと呼称されるほど世界中で愛されかなりの高値で取引されている伝説的機材です。
知名度ではNeveが圧倒的ですが、方向性は違えどクオリティーではNeveも凌駕するほど。
特にVo録音では絶品とされています。
アビーロードスタジオでビートルズの録音に使われていたことでも有名。
本気で設計された真空管音響機材は、音像の立体表現に極めて優れ、実物よりも音像が大きくなるとよく表現されています。
この感覚は実際に使ってみないとわかりづらいですが、真空管マイクプリアンプはリアルな質感を求められるパートによく合うと個人的に思いますね!
Voやアコースティックギターなど。
Universal Audioのチャンネルストリップも真空管式ですが、ボーカル録音にとても重宝するアイテムです。
UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ ) / LA-610 MKII サウンドハウス
こちらも音の立体表現に優れている印象。一時期僕のエース機材でした。
というわけで、真空管マイクプリアンプは総じて繊細さや解像度やニュアンスを大事にしたいパートに良く合うというのが個人的感想。
ディスクリートマイクプリアンプはパンチのあるアナログ感全開な音!
ディスクリートマイクプリアンプと言えばみんな大好きNeve(1073とかの初期)が代表的です。
Neve 1073 Preamp + EQ with rare Vintage Marinair Transformers (icluding Octal) | eBay
ディスクリートというのはICチップを使わず、増幅をトランジスタのみで行なっている回路のこと。
ICを使った回路に比べ部品点数が多くなり、制作に手間やコストがかかってしまうデメリットがありますが、何にも変えられないのは特有の太くパンチがありながらたっぷりとした音質表現ができること。
「ディスクリートである」ということは、マイクプリアンプにとってブランド的価値を与える称号のような向きさえあります。
トランジスタは真空管と同じような動作をします。
その上小さく安価に量産できるため真空管に変わり爆発的に普及していきました。
トランジスタ系マイクプリアンプは楽器系にものすごく合うというのが僕のイメージ。
特にドラムの皮物系はトランジスタマイクプリとガッチリ合います。
距離感の表現よりも、クローズ状態でいかにソースに芸術的な色をつけて仕上げていくか?
がトランジスタマイクプリアンプの醍醐味なんじゃないかと思ってます。
一番音にカラーがつくが強い印象ですね!
AURORA AUDIO ( オーロラオーディオ ) / GTQ2 サウンドハウス
IC系マイクプリアンプはスピード感のあるハッキリした音
IC系のマイクプリアンプは一般的にスピード感のある音が特徴的です。
代表的なのがコンソールで世界的なシェアをぶんどっているSSL(ソリットステートロジック)
プラグインでもモデリングされたものが山のようにありますね。
レコーディング現場では単体のマイクプリアンプではなく、音をまとめるコンソールとして使用されるのが一般的ですが、500シリーズで販売されていたりもします。
SOLID STATE LOGIC ( ソリッドステートロジック ) / 500 Series VHD Preamp サウンドハウス
スピード感のある音と冒頭で書きましたが、SSLはそれに加えて芯のある、こちらも特徴的な太い音をしています。
はっきり言って超好み。
好みすぎてラッキングしてしまったほどです。
-DIYで配線したSSL4000Eモジュール-
Solid State Logic SSL 611V module channel strip Black EQ 4000 6000 console 611eq | eBay
今でもebayとかでモジュールは出回ってますね↑
最近SSL9000シリーズのチャンネルストリップもDIYで配線し、使用レビューを書きましたのでよろしければ合わせてどうぞ!
ちなみにICと聞くと現代的でデジタルちっくな感じがしますが、マイクプリに使われるICはアナログ素子です。
これ結構混同している方が多いとおもいます(僕もそうでした)
ってイメージがあるとおもいますが、それは間違い!
マイクプリアンプのアンプ部分に使うのは、全部アナログの部品です!※
デジタルかアナログかは作る回路によって決まるので、実は真空管でデジタル回路を作ることも可能なんです。
上野の科学博物館に真空管で作られた巨大な電卓(計算機)が展示されていたはず。
ですのでSSLはアンプ部分にICが使われていますが、これも立派なアナログマイクプリアンプの回路です。
ただSSLはコンソールにデジタル技術も併用しているので、その他の部分でデジタル回路が組まれています。
ハイブリッド系。
プラグインソフトのSSLは当然デジタルです。
パソコンの計算で音色が処理されています。
※ICの中にはデジタルICというものもあります。例えばエフェクターのディレイに使うICなど。 しかし、それも中身の回路がデジタル方式で組まれているためであって、ICだからデジタルというわけではありません。 誤解なきよう☜(◉ɷ◉ )
ちょっと脱線。マイクプリアンプに使うICについて
またICという部品ですが、別名集積回路と呼ばれているのをご存知な方も多いはず。
何が集積されているのかというと、ものすごくちっさいトランジスタや抵抗やコンデンサーという部品がチップの中につめこまれているんです。
つまりICの中にはトランジスタが何個も入ってます!親子みたいな関係ですね。
さらにICにも様々な種類があるんですが、マイクプリアンプに使われるICはオペアンプと呼ばれるもの。
、、、なんだかごっちゃになってきました!すみません。
まとめると。
- マイクプリアンプの増幅部分に使われるICはオペアンプという種類
- ICの中にはトランジスタが何個も入っている
- オペアンプもアナログな部品
FOCUSRITE ( フォーカスライト ) / ISA One Analogue サウンドハウス
FORCUSRITEもICでアンプ部分が組まれています。
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オーディオマニアの方々の間で親しまれているオペアンプもいろいろあります。
というわけで、もう一つ番外編で。
特徴的な増幅方法を持った有名マイクプリアンプがあるので最後にそちらを。
ディクリートオペアンプを使ったマイクプリアンプ
ICを使わない回路をディスクリートと呼びました。
ですので、ICに詰め込まれていたオペアンプの回路を、普通サイズのトランジスタを使って組み上げたのをディスクリートオペアンプと言います。
いやはや訳がわからないアレですが、、、、そんなものもあるということ。
それを使っている筆頭がAPI製品です。
API ( エーピーアイ ) / The Channel Strip サウンドハウス
APIには2520という有名なディスクリートオペアンプが内蔵されています!
API VINTAGE 2520 OP-AMPS FROM THE 90’S | eBay
ICオペアンプで済むところをわざわざディスクリートにするには理由がありまして。
- ディスクリートで組むと部品が大きくなるので部品を変えやすく、音質にこだわれる
- 動作電圧を高く設計できるので、ヘッドルームを大きく取れる
ということ。
ICは安価で小型でいいことずくめですが、中の部品性能に徹底的にこだわるのは難しいです。
また動作電圧もだいたい±15Vあたりが限度。
理論上、動作電圧が高ければ高いほどヘッドルームを広く取れるようになります。
ヘッドルームが広い(高い)と、入力信号が歪みにくくなるので、大音量の録音にも耐えられるようになります。
あとヘッドルームが広くなると音に余裕が出るとも言われていますね。
どんな余裕感なのかは聴いてみないと想像しづらいと思いますが、確かにディスクリートオペアンプを高電圧で動作させたマイクプリアンプは音に余裕を感じます。
とはいえ、APIは±15V付近で動作している点は、スルーで、、、。
高電圧のオペアンプ駆動機材で有名なのはこちらですね。
1- Quad Eight EQ-444x, 4 band, parametric EQ, OUTSTANDING! | eBay
Quad eightというアメリカのメーカーの機材です。
かつてはAPIと人気を二分するほど勢いのあったメーカーだったようですが、現在では残念ながら消滅しています。
Quad Eightを特徴づけていたのは±28V!という驚異的な動作電圧の高さに耐えるAM-10というディスクリートオペアンプを搭載していた点です。
1- Quad Eight AM10 module ~ NEW…these make outstanding mic preamps! | eBay
僕もモジュールを海外から仕入れて動作させて音を聴いたことがありますが、エラい良き音してました。
諸事情ですぐに手放しちゃいましたけど、、、。
A DESIGNS ( エーデザインズ ) / Pacifica サウンドハウス
現在ではA DESIGNSというメーカーがQuad Eightの音色を復刻しているようです。
つまみがそっくりでいい感じ。
と、有名どころではAPIがディスクリートオペアンプを使ったマイクプリアンプとなります。
音色としてはパキッとして派手でパンチの効いた元気な音、という表現がぴったりな感じでしょう。
カラッと晴れたアメリカンサウンドと言われているのも納得です。
こちらも個人的には楽器系に使いたい印象ですね。
APIも高級機材ですが、その音色はこの機種でしか出せないオンリーワン感を備えています、、、。
個別のレビュー記事はこちら。
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マイクプリアンプのタイプ比較まとめ
というわけで最後を合わせれば4つのタイプが出てきました!
- 真空管→ Telefunken v76など
- ディスクリート(トランジスタ)→Neveなど
- IC(オペアンプ)→SSLなど
- ディスクリートオペアンプ→APIなど
見事に有名どころのマイクプリアンプが振り分けられましたね(´⊙౪⊙)۶!
同じタイプ同士でも、当然そこからまた各製品ごとに音色は変わってきますが(トランスやコンデンサーといった部品でも変わってきます)、大まかな音色の方向性は割と近くなってきます。
実際に音を聞ければ一番ですけど、なかなかそうもいかない場合が多いですよね、、。
完璧ではないですが、この大別を頭に入れておくと音色の想像がしやすくなるのではないかと!
部品から見たマイクプリアンプのお話でした。
マニアックな記事を最後までお読みいただきありがとうございました!
Universal Audio LA-610 Mk II
Focusrite(フォーカスライト) ISA One