ボーカルEQは、最初から「何Hzを何dB動かすか」で考えると分かりにくくなります。
声によって必要な処理は違います。同じ人でも、マイク、距離、歌い方、録音した部屋が変われば、録れた声のバランスも変わります。
僕は周波数表に合わせて声を作るより、まずオケの中で何が気になるのかを聴いて、必要な場所だけ動かします。
低域、低中域、中域、中高域、高域では、動かした時に変わる場所が違います。その違いが分かると、固定された設定値を探さなくてもEQを合わせやすくなります。
目次
ボーカルEQは周波数表どおりに作るものではない
ボーカルEQでは、「この帯域を削る」「ここを上げる」といった周波数の目安をよく見かけます。
探す場所の目安にはなりますが、その数値をそのまま自分のボーカルへ当てはめても、同じ結果になるとは限りません。
声によって必要な処理は変わる
低い声と高い声では、声を作っている成分の分布も違います。
同じように「こもる」と感じても、低中域が多い声もあれば、高域が少ないことで全体が暗く聞こえている声もあります。
聞こえ方が似ていても、原因まで同じとは限りません。
同じ声でも録音条件で変わる
同じ人が歌っていても、マイクとの距離や角度が変われば音色は変わります。
使ったマイクや部屋の反射、歌い方によっても、録音された低域や高域のバランスは変わります。
前の録音で合ったEQをコピーしても、次の録音でそのまま合うとは限りません。
まず気になる場所だけを触る
録った声がすでにオケの中で成立しているなら、EQを大きく動かす必要はありません。
低い成分が邪魔なら低域を見る。曇っているなら低中域を見る。輪郭が足りないなら中高域や高域を見る。
最初から全帯域を触るより、今聞こえている問題から一つずつ動かした方が、何を変えたのか追いやすいです。
最初にローカットが必要か確認する
ボーカルでは、最初にローカットを入れる使い方もよくあります。
ただ、ローカットを入れること自体が目的ではありません。歌に必要のない低い成分が入っている時に、その部分を整理します。
不要な超低域を整理する
マイクスタンドの振動や空調、床から伝わった振動など、歌声とは別の低い成分が録音へ入ることがあります。
必要のない成分なら、ローカットで落とせます。
耳では目立ちにくくても、低い成分が残っていることで、後段のコンプが余計に反応することもあります。
低域を切ればこもりが取れるとは限らない
ボーカルがこもって聞こえる時に、ローカットの位置を上げれば解決するとは限りません。
原因がもっと上の低中域にあるなら、その下を切っても曇り方はほとんど変わりません。
不要な低域を切ることと、低中域のこもりを整理することは分けて考えます。
上げすぎると声の太さまでなくなる
ローカットの周波数を上げていけば、いずれ歌に必要な低域まで削れます。
軽くなってスッキリしたように聞こえても、オケへ戻すと声の胴体がなくなり、細く感じることがあります。
どこまで切るかは、不要な低域が減ったかだけでなく、声の太さが残っているかも一緒に聴きます。
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低中域はボーカルの厚みとこもりの両方に関わる
低中域には、ボーカルの厚みに関わる成分があります。
その一方で、多すぎるとモコモコしたり、箱の中で鳴っているように曇って聞こえたりします。
厚みとして必要な部分もある
低中域を全部邪魔な帯域として削ると、こもりだけでなく声の太さまでなくなります。
特にその声の胴体がある場所を大きく削ると、ソロではスッキリしていても、オケの中では弱く感じることがあります。
低中域そのものを消すのではなく、厚みとして残したい部分と、余分に膨らんでいる部分を分けます。
多すぎるとモコモコ・箱っぽく聞こえる
低中域が強いと、声の輪郭が曇り、モコモコしたり箱っぽく聞こえたりすることがあります。
録った時点ですでに強い場合もあれば、コンプを入れた後に密度感が変わり、気になり始める場合もあります。
EQを少し動かして、曇りが減る場所が見つかったら、必要な分だけ下げます。
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広く削りすぎると声が細くなる
こもりが気になるからと低中域全体を大きく下げると、問題のない部分まで一緒に削れます。
その結果、曇りは減っても、ボーカルの厚みや存在感までなくなることがあります。
削った後は、ソロでスッキリしたかより、オケの中で声の芯が残っているかを確認します。
中域は声の芯や鼻にかかった響きに関わる
中域には、声そのものの存在感や言葉の中心になる成分が多く含まれます。
ここを削りすぎると声の芯が抜けます。一方で、一部が強いと鼻にかかったような響きや、狭い場所で鳴っているような癖として聞こえることがあります。
声の芯まで削らない
中域が気になるからと広く削ると、声が前にいるための芯までなくなります。
ソロでは滑らかになっても、オケへ戻した時に急に聞こえにくくなったなら、必要な中域まで削っている可能性があります。
特定の帯域が強いと鼻にかかったように聞こえることがある
中域の一部が強く出ていると、鼻にかかったような響きや、特定の母音だけが強く目立つことがあります。
ただ、「鼻声なら必ずこの周波数」とは決められません。
声ごとに位置が違うので、実際の録り音から気になる場所を探します。
狭いQで一点だけを探し続けない
問題の場所を探す時に、狭いQで大きくブーストして周波数を動かす方法があります。
確認には使えますが、大きく持ち上げれば、もともと問題のない帯域まで不自然に聞こえます。
一時的に探した後は元の音量へ戻し、本当に気になっていた響きが減るのかを確認します。
中高域はボーカルの輪郭と前への出方に関わる
中高域には、言葉の輪郭や発音の分かりやすさに関わる成分があります。
足りなければ声が埋もれたように感じることがありますが、強すぎれば硬さや耳への刺さりにつながります。
足すと発音が見えやすくなる
ボーカルの輪郭が弱い時は、中高域を少し足すことで言葉が見えやすくなることがあります。
ただ、ソロで派手に聞こえるところまで上げる必要はありません。
オケの中で言葉が見えるようになったところで、一度止めて全体を聴きます。
上げすぎると硬さや痛さにつながる
中高域を上げ続けると、輪郭が増える代わりに、声が硬くなったり耳へ刺さったりします。
前に出ないからと上げ続けても、原因が音量やマスキングなら解決しません。
聞こえるようにはなったのに声が痛くなったなら、EQ以外の原因も戻って見ます。
オケとの重なりも一緒に見る
ボーカルの輪郭が足りない時に、声側だけを足す必要がない場合もあります。
ギターやピアノ、シンセが同じあたりを強く使っているなら、周囲を少し整理するだけでボーカルが見えてくることがあります。
僕は、ボーカルを足す方法とオケを少し引く方法を比べて、元の声を大きく崩さない方を選びます。
高域は明るさと空気感に関わる
高域を動かすと、ボーカルの明るさや息遣い、空気感の聞こえ方が変わります。
暗い声を少し開きたい時には使えますが、高域も上げれば上げるほど良くなる場所ではありません。
高域を足すと明るさや息遣いが出る
高域を少し持ち上げると、声が明るくなり、息遣いや細かいニュアンスも聞こえやすくなります。
オケの中でボーカルの上側が足りない時は、この変化で抜けが出ることもあります。
歯擦音まで一緒に強くなることがある
高域を持ち上げると、欲しかった明るさだけでなく、サ行などの歯擦音まで強く聞こえることがあります。
声全体はまだ暗いのに、サ行だけ痛くなってきたなら、そのまま高域を上げ続けるとバランスが崩れます。
必要ならディエッサーと役割を分ける
声全体には高域が欲しいけれど、歯擦音だけが強いこともあります。
そこで高域全体を下げれば、欲しかった明るさまでなくなります。
こういう時は、ボーカル全体のEQと、歯擦音を抑えるディエッサーを分けて考えます。
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EQは削るだけでなく足す方法もある
EQというと、不要な場所を探して削る処理に偏ることがあります。
実際には、邪魔な部分を引くことも、足りない輪郭や明るさを足すこともできます。
不要な部分を引く
低中域に余分な膨らみがある、特定の中域だけが強く癖になっている、といった場合は、その部分を下げます。
問題になっている場所だけを減らせれば、それ以外の音色を大きく変えずに済みます。
欲しい輪郭や明るさを足す
声の輪郭が足りないなら中高域、全体が暗いなら高域を少し足す方法もあります。
欲しい成分が元の声に残っているなら、他の帯域を大きく削って相対的に目立たせるより、必要な場所を少し足した方が自然なこともあります。
引き算と足し算を重ねすぎない
低中域を削り、中域も削り、中高域と高域を上げていくと、最初の声からかなり離れます。
一つの変更で問題がなくなったなら、そこで止めます。
処理を追加するたびに、最初に気になっていた問題がまだ残っているのかを聴き直します。
ソロで良い音よりオケの中で成立するかを見る
ボーカルEQをソロだけで詰めていくと、オケへ戻した時に思った位置へ収まらないことがあります。
最終的に鳴る場所はミックスの中なので、EQもオケと一緒に聴きながら決めます。
ソロでは薄く感じてもミックスではちょうどいいことがある
低中域を少し整理したボーカルは、ソロでは元より細く感じることがあります。
ただ、オケにも低中域があるので、一緒に鳴った時にはその方が声の輪郭が見えることがあります。
ソロで元の太さを完全に残すより、曲の中で必要な厚みが残っているかを見ます。
単体で派手でもオケでは浮くことがある
中高域や高域を上げて、ソロでは細部までよく聞こえる声を作っても、オケへ戻すとボーカルだけ明るく浮くことがあります。
単体で気持ちよく聞こえる音と、曲の中でちょうどいい音は同じとは限りません。
周囲の楽器を動かす方が自然な場合もある
ボーカルが聞こえにくいからと、声へEQを足し続ける必要はありません。
周囲の楽器がボーカルと近い帯域を強く使っているなら、そちらを少し整理することで、ボーカルの音色を残したままスペースを作れることがあります。
僕はボーカルを変える前に、オケ側を少し動かした方が自然ではないかも一度見ます。
狭いQでブーストして問題帯域を探す方法は使いすぎない
問題の帯域を探す時に、狭いQで大きくブーストして周波数を動かす方法があります。
特定の共鳴や癖を探す補助にはなりますが、それだけで「悪い帯域」を決めると削りすぎやすくなります。
大きく持ち上げれば何でも嫌な音に聞こえる
狭い範囲を大きくブーストすれば、もともと問題のない場所でも不自然な響きが出ます。
そこで嫌な音がしたからと、その帯域が元のボーカルでも問題だったとは限りません。
問題の場所を確認する補助として使う
元の状態ですでに気になる響きがあり、その場所を探すために一時的にブーストするなら使えます。
場所が見つかったらブーストを戻し、その帯域を少し下げた時に本当に違和感が減るのかを確認します。
最終的にはオケの中で判断する
気になる共鳴をきれいに削れても、ミックスの中で声の存在感までなくなれば、処理量が大きすぎます。
場所を探す時はソロも使えますが、最終的な削り量はオケへ戻して決めます。
EQ前後の音量差を大きくしすぎない
EQを大きく動かすと、音色だけでなく全体の音量感も変わります。
その差が大きいまま比較すると、EQで何が変わったのか判断しにくくなります。
大きくなっただけで良く聞こえることがある
中高域や高域をブーストして全体のレベルまで上がると、存在感が増したことで良くなったように感じることがあります。
EQ前後の音量を近づけて比べると、本当に欲しかった輪郭や明るさが増えたのかを判断しやすくなります。
削って小さくなっただけでスッキリしたように感じることもある
反対に、広い帯域を大きく削れば全体の音量も下がります。
小さくなったことで耳当たりが弱まり、スッキリしたように感じることもあります。
音量をある程度そろえても、同じ改善が残っているかを確認します。
バイパスして何が変わったか確認する
EQを触り続けると、変更後の音に耳が慣れてきます。
一度バイパスして元へ戻し、何が良くなって、何を失ったのかを比べます。
処理を増やすほど、元の声へ戻って確認する時間を入れます。
ボーカルEQをかけすぎると起きること
ボーカルを良くしようとしてEQを重ねていくと、最初に直したかった問題とは別の違和感が出ることがあります。
低中域を削りすぎて細くなる
こもりを取り続けるうちに低中域が減りすぎると、声の厚みや安定感まで失われます。
スッキリしたのか、単に声が薄くなったのかを分けて聴きます。
中高域を上げすぎて硬くなる
輪郭を出すために中高域を上げ続けると、言葉は見えやすくなっても、声が硬く耳へ当たることがあります。
聞こえない原因が音量や周囲との重なりなら、EQをさらに足しても根本は変わりません。
高域を足しすぎて歯擦音が目立つ
明るさや空気感を増やしているうちに、サ行や息の成分だけが強く聞こえることがあります。
高域全体をさらに動かすより、歯擦音だけを分けて処理した方が、欲しかった明るさを残せる場合があります。
処理を重ねて元の声が分からなくなる
ローカット、低中域のカット、中域のカット、中高域と高域のブーストを重ねていくと、最初の録り音から大きく離れていきます。
その状態でさらに修正を続けると、何を直しているのか分からなくなることがあります。
一度EQを外した方が自然なら、処理を減らすところまで戻ります。
ボーカルEQの基本的な確認順
ボーカルEQを使う時は、僕は帯域ごとの数値を先に決めず、聞こえている問題から順番に見ています。
- EQをかける前のボーカルをオケの中で聴く
- 不要な超低域が入っていないか確認する
- 低中域にこもりや余分な膨らみがないか見る
- 中域に強い癖や鼻にかかった響きがないか見る
- 中高域の輪郭が足りないか、反対に強すぎないか見る
- 高域の明るさと歯擦音のバランスを見る
- 必要な場所だけ削る、または足す
- EQ前後の音量を近づけてバイパス比較する
- 最後にオケの中でボーカルの位置を確認する
低域は不要な成分と声の土台、低中域は厚みとこもり、中域は声の芯や癖、中高域は輪郭、高域は明るさや空気感を見る時の目安になります。
ただ、どの帯域も必ず削る、必ず上げると決まっているわけではありません。
今のボーカルで何が多く、何が足りないのかをオケの中で聴き、必要な場所だけ動かす。僕はそこをボーカルEQの基準にしています。
ボーカルミックス全体の流れと基本はこちら👇
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ボーカルミックスのやり方|録音した声をオケに馴染ませる基本 | DTM DRIVER!
ボーカルミックスの基本を、音量、EQ、コンプ、ディエッサー、リバーブ、ディレイ、オートメーションまで順番に整理します。録音した声が埋もれる・浮く時に、何を確認して…