ボーカルの低音をどこまでカットするかは、最初に迷いやすいところです。
80Hz、100Hz、120Hzといった目安はありますが、その数字まで切れば正解というわけではありません。
声の高さだけでなく、マイク、距離、歌い方、録音環境によって、録れている低域の量は変わります。
僕は数値を先に決めず、不要な低域が減っていくところから、声の太さや低い母音まで変わり始めるところを探します。必要な声まで削れたと感じたら、少し戻します。
目次
ボーカルのローカットは何Hzまでと決まっていない
ボーカルのローカットには、すべての声に使える一つの周波数はありません。
同じ100Hzに設定しても、ほとんど印象が変わらない声もあれば、その手前から低い音程の厚みが変わる声もあります。
歌っている音程だけではカット位置を決められない
ボーカルの最低音を確認すれば、低域処理を考える手掛かりにはなります。
ただ、HPFは設定した周波数を境に音が突然なくなる処理ではありません。Slopeに応じてその周辺から徐々に減衰するため、基音に近い位置まで上げれば声の重さも変わります。
最低音の数字だけからカット位置を決めず、実際に声がどう変わるかを聴きます。
男声・女声だけでも決められない
男声は低め、女声は高めにローカットするという目安もあります。
ただ、同じ性別でも声域や声質は違います。歌っている音程やマイクとの距離でも、録音された低域の量は変わります。
男声だから80Hz、女声だから100Hzという形では固定しません。
録り音を聴きながら少しずつ上げる
ローカットは低い位置から入れて、少しずつ周波数を上げると変化を追いやすくなります。
不要な振動や低いノイズだけが減っている間は、そのまま上げて比較できます。
声そのものの太さや低い音程の重さまで変わったら、必要な成分へ入ってきた可能性があります。
まずローカットで何を消したいのか確認する
ローカットを使う目的の一つは、歌には必要のない低域を整理することです。
最初から声を細くするのではなく、録音の下側に何が入っているのかを確認します。
床やマイクスタンドから入る低い振動
床を踏んだ振動や、マイクスタンドへ伝わった揺れが低い成分として録音へ入ることがあります。
歌声として必要のない振動なら、ローカットで減らせます。
空調や録音環境から入った低域
空調や外から伝わる振動など、録音環境に由来する低域が入ることもあります。
耳では目立ちにくくても、低いところにエネルギーが残っている場合があります。
歌に必要のない成分なら、後の処理へ進む前に整理できます。
ポップノイズや吹かれに含まれる低い成分
「パ」「バ」などの発音で強い息がマイクへ当たると、低いポップノイズが入ることがあります。
低域側へ大きく出た成分なら、ローカットで軽減できる場合があります。
ただ、強いポップノイズは広い帯域へ影響していることもあるので、HPFだけで自然に直るとは限りません。
80Hz・100Hz・120Hzはあくまで確認の目安
ボーカルのローカットでは、80Hz、100Hz、120Hzあたりの数字を目安として見ることがあります。
この数字はカット位置を決める答えではなく、実際の声を聴きながら比較するための目安です。
80Hz前後で変化を確認する
80Hz前後まで上げた時に、不要な振動だけが減って声の印象がほとんど変わらないことがあります。
反対に、低い声ではこの付近からすでに重さが変わる場合もあります。
80Hzなら安全という意味ではなく、その声がどう変わるかを確認する位置の一つとして扱います。
100Hz前後まで上げても成立する声はある
声やアレンジによっては、100Hz前後まで上げても必要な厚みが残ることがあります。
不要な低域が減り、オケの中でも声の土台が残っているなら、その位置で止められます。
その手前ですでに声が軽くなっているなら、100Hzまで上げる理由はありません。
120Hz以上では声の胴体まで変わることがある
120Hz前後からさらに上へ進むと、声によっては低い音程や母音の重さがはっきり変わってきます。
その位置でも自然に成立するボーカルはありますが、数字だけを基準に上げ続けると、不要な低域ではなく声そのものを削る処理へ変わります。
高く設定できるかではなく、そこまで上げる必要があるかで判断します。
ローカットを上げすぎると何がなくなる?
ローカットを上げていくと、最初は不要な低域が減って声が整理されます。
そこからさらに上げると、今度はボーカルそのものの重さや厚みが変わり始めます。
声の太さが減る
必要な低域まで減らすと、声の太さや重心が軽くなります。
ソロではクリアになったように聞こえても、オケへ戻した時にボーカルが細く感じることがあります。
低い音程や母音の重さが変わる
ローカットを上げていくと、曲の中でも低い音程を歌っている部分から変化が目立つことがあります。
高いフレーズでは問題なくても、低いフレーズだけ急に軽く聞こえることもあります。
一つの場所だけをループせず、曲の中で音程が低い部分も確認します。
ソロではスッキリしてもオケで弱くなる
低域を減らすと、ボーカル単体では余分な重さがなくなったように聞こえます。
ただ、オケへ戻すと声の下側が足りず、中高域だけが前に残ることがあります。
ローカットはソロのスッキリ感だけで決めず、曲の中で必要な厚みが残っているかまで聴きます。
こもりはローカットだけでは直らない
ボーカルがこもって聞こえると、ローカットをさらに上げたくなることがあります。
ただ、原因が低中域にあるなら、HPFを上げ続けても狙っている曇りはあまり変わりません。
低域と低中域は分けて考える
ローカットで整理する下側の成分と、モコモコしたこもりとして聞こえる低中域は分けて見ます。
不要な低域がすでに取れているなら、その先までHPFを上げる前に、こもりがもっと上にないか確認します。
HPFを上げてもモコモコが残ることがある
ローカットを上げて声は細くなったのに、まだモコモコして聞こえることがあります。
その場合は、HPFで減らしている場所より上に原因が残っている可能性があります。
さらにカット周波数を上げると、こもりより先に声の土台が減っていきます。
こもりが上にあるなら別のEQで見る
不要な低域は整理できているのに曇りが残るなら、低中域を別のEQバンドで確認します。
ローカットでどこまでも追わず、低域の整理とこもりの処理を分けた方が、必要な声を残せます。
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ボーカルがこもる原因|低中域・コンプ・リバーブを見直すポイント | DTM DRIVER!
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ローカットしてもボーカルの低音が膨らむ時
ボーカルの低音が膨らんで聞こえる時、ローカットのCutoffを上げ続ければ直るとは限りません。
実際には、100Hz以下の低域ではなく低中域が膨らんでいたり、マイクとの距離による近接効果が強く出ていたり、一部のフレーズだけ低い成分が前へ出ていることがあります。
低音が多いと感じた時は、まずどの範囲が膨らんでいるのかを分けます。
近接効果で低域が増えている
近接効果が生じる指向性マイクでは、口元をマイクへ近づけるほど低域が増えます。
録音した声の下側が必要以上に膨らんでいる場合は、EQだけでなく録音時の距離も確認します。
特に歌っている途中でマイクとの距離が変わると、フレーズごとに低域の量まで変わることがあります。
この状態をHPFだけで揃えようとすると、低域が多くない部分まで一緒に削ることになります。
低域ではなく低中域が膨らんでいることもある
「低音が多い」と感じても、実際に目立っている場所が100Hz以下とは限りません。
150〜400Hz前後の低中域が多いと、声が膨らんだり、モコモコしたり、オケの中で重く聞こえたりすることがあります。
この場合は、HPFをさらに上げるより、Bell EQなどで膨らんでいる場所を確認した方が直接的です。
低域ノイズを整理するローカットと、声の低中域を整えるEQは役割を分けて考えます。
ローカットを上げ続けても解決しないことがある
低音が気になるたびにCutoffを上げていくと、いずれ声として必要な低い成分まで減っていきます。
それでも膨らみが残っているなら、問題はHPFより上の帯域にある可能性があります。
ローカットを深くした結果、声の土台だけ細くなり、低中域のこもりは残ることもあります。
一度HPFをバイパスして、低域そのものと低中域の膨らみを分けて聞くと判断しやすくなります。
コンプ後に低域や低中域が目立つこともある
コンプをかけた後から、ボーカルの下側が前へ出たように聞こえることもあります。
コンプが低域を新しく作っているわけではありません。
大きな部分を圧縮してダイナミクスを狭め、その後で全体のレベルを戻すと、もともと入っていた低域や低中域も相対的に聞こえやすくなることがあります。
コンプを入れる前は気にならず、処理後だけ膨らむなら、EQだけでなくコンプ前後も比較します。
一部のフレーズだけ膨らむならDynamic EQも使える
曲中ずっと低域が多いのではなく、一部の母音や音程だけ膨らむ場合もあります。
その時に固定EQで常に削ると、問題のない場所まで細くなります。
特定の帯域が強くなった時だけ抑えたいなら、Dynamic EQやMultiband Compressorを使う方法があります。
ただし、最初からDynamic EQを使うのではなく、固定した膨らみなのか、フレーズごとに変わる膨らみなのかを先に分けます。
録り音まで戻った方が早い場合もある
毎回同じように低域が膨らみ、EQで大きく削らないと使いにくいなら、録音条件まで戻る余地があります。
マイクへ近づきすぎていないか、歌っている途中で距離が大きく変わっていないかを確認します。
録音時に低域の量を安定させられれば、ミックスでHPFやDynamic EQを深く使う必要も減ります。
ボーカルの低音が膨らむ時は、ローカットを強くする前に、低域なのか低中域なのか、近接効果なのか、コンプ後に目立ったのかを分けます。原因が違えば、HPF、Bell EQ、Dynamic EQ、録音距離のどこを直すかも変わります。
近接効果で低域が増えている場合もある
録ったボーカルの低域が多い時は、声質だけでなくマイクとの距離も確認します。
方向性マイクでは、音源へ近づくことで低域が強くなる近接効果が起こるものがあります。
単一指向性マイクは近づくと低域が増えることがある
単一指向性を含む圧力傾度型の方向性マイクでは、口元へ近づくほど低域が強調されることがあります。
そのため、録り音の低域が多くても、それが歌い手自身の声質だけとは限りません。
距離が変わると低域の量も変わる
歌っている途中でマイクとの距離が大きく変われば、近接効果の出方も変わり、低域の量がフレーズごとに動くことがあります。
近いところだけ太く、離れたところだけ軽い状態では、一本の固定EQだけで全体を自然に揃えるのが難しくなります。
EQだけで揃える前に録り音を見る
低域の量が曲の途中で大きく変わっているなら、ローカットの位置だけで全部を合わせようとしない方が自然な場合があります。
録り直せるなら距離を見直せます。すでに録音しているなら、必要な場所だけ別に処理する方法もあります。
Slopeでも低域の残り方は変わる
ローカットは、カット周波数だけでなくSlopeによっても低域の減り方が変わります。
同じ100Hz付近に設定しても、12dB/octと24dB/octでは、その下へ向かう減衰の速さが違います。
緩いSlopeでは下側がゆるやかに減る
12dB/octなど比較的緩いSlopeでは、周波数が下がるにつれて段階的に減衰していきます。
カット位置より下の成分をある程度残しながら、低いところへ向かって量を減らせます。
急なSlopeでは下側をより強く減らせる
24dB/octなど急なSlopeでは、カット周波数より下の成分をより速く減衰させられます。
明確に取り除きたい低域がある時には使えますが、急なSlopeが常に良いわけではありません。
同じ周波数でも結果は変わる
100Hzという数字が同じでも、Slopeが違えばその周辺から下の残り方は変わります。
カット周波数だけを見ず、必要ならSlopeも変えて、声の土台が残る方を聴きます。
コンプの前にローカットするか後にするか
ローカットをコンプの前に置くか、後に置くかも固定ではありません。
前に置けばコンプレッサーへ入る信号そのものが変わり、後に置けば圧縮した後の音色を整えられます。
不要な低域でコンプを反応させたくない時
歌に関係ない低い振動や大きな低域成分が入ったままコンプへ送れば、その成分も検出に影響することがあります。
その低域が不要なら、コンプの前で整理してから圧縮する方法があります。
EQをコンプ前に置く方法
不要な低域を先に減らしておけば、コンプは整理した後のボーカルへ反応します。
低いノイズや振動によってコンプの動きが変わっている時は、この順番を試せます。
コンプ後に音色を整えるEQもある
コンプを通した後に、低域や低中域の聞こえ方が変わることもあります。
その場合は、コンプ後にもう一度EQを置き、最終的な音色を整える方法もあります。
EQは必ずコンプ前、必ず後とは決めず、何を変えるための処理なのかで位置を分けます。
ローカットを入れた方がいい場合と入れなくてもいい場合
ボーカルトラックだからといって、必ずローカットを入れる必要はありません。
不要な低域があるなら使い、録り音のままで問題がないなら無理に削る必要はありません。
不要な低域が入っているなら使う
振動や低いノイズが入っているなら、ローカットを使う理由があります。
その場合も、歌に必要な低域を残しながら、下側の不要な成分だけを減らします。
切ってもほとんど変わらないなら深追いしない
低い位置でローカットを入れてもほとんど変化せず、ミックス上の問題もないなら、変化を作るためだけに周波数を上げる必要はありません。
上げ続ければ、いずれ不要な低域ではなく声そのものへ入っていきます。
最初から問題がないなら無理に入れない
録り音がきれいで、不要な低域もなく、オケの中でも問題がないなら、ローカットを使わない選択もできます。
「ボーカルだからHPFを入れる」ではなく、今の録音に必要な処理なのかを先に見ます。
ローカットはソロだけで決めない
ボーカル単体では低域が多く聞こえても、オケへ入れるとその厚みが必要なことがあります。
最終的なカット位置は、曲全体と一緒に鳴らして確認します。
ソロでは低域が多く感じることがある
ボーカルだけを聴いていると、低い成分が目立って聞こえることがあります。
そこで単体が軽くなるまで削ると、オケへ戻した時には声が薄すぎることがあります。
オケに入るとその厚みが必要な場合もある
ギター、ピアノ、シンセなどと一緒に鳴った時、ボーカルの下側が声の重心として必要になることがあります。
ソロでは少し太く聞こえても、曲の中で自然なら、その低域を残せます。
キックやベースとの関係も見る
低域にはキックやベースもありますが、それだけを理由にボーカルの低域を大きく削る必要はありません。
実際に重なって邪魔になっているのか、声の厚みとして残っているのかを曲の中で聴きます。
低域が混み合っているなら、ボーカルだけでなく周囲の楽器との関係も含めて整理します。
ボーカルの低音をカットする基本的な決め方
ボーカルのローカットを決める時は、何Hzまで切るかを最初に固定するより、どこから声そのものが変わるのかを追った方が分かりやすいです。
僕は、だいたい次の順番で確認しています。
- ローカットを切った状態で録り音を聴く
- 歌に関係ない低い振動やノイズがあるか確認する
- 低い位置からHPFを入れる
- 少しずつカット周波数を上げる
- 不要な低域が減っていく位置を確認する
- 声の太さや低い音程の重さまで変わり始めたら少し戻す
- 必要ならSlopeを変えて低域の残り方を比べる
- こもりが残るならHPFを上げ続けず、低中域を別に見る
- 最後にオケの中でボーカルの厚みを確認する
80Hz、100Hz、120Hzといった数字は、比較する場所の目安にはなります。
ただ、どこで止めるかは声によって変わります。
不要な低域が減ったところから、声の土台まで変わり始めるところを探し、必要な声が削れたら少し戻す。僕はその位置をローカットの基準にしています。
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