ボーカルへコンプをかけても、曲の最初から最後まで同じ位置に聞こえるとは限りません。
Aメロではちょうどよかった声がサビで埋もれたり、静かな場所では一部の言葉だけ前へ出たりします。
コンプは声のダイナミクスを整える処理ですが、曲の展開やオケの変化に合わせて、一語ずつちょうどいい位置へ置いてくれるわけではありません。
そこで使うのがフェーダーオートメーションです。コンプで残った音量差を全部均一にするのではなく、その時のオケに対して必要な位置へボーカルを動かします。
目次
ボーカルオートメーションとは?
ボーカルオートメーションでは、曲の途中でフェーダーやSend量などを自動的に変化させます。
音量を整える場合は、Aメロ、サビ、単語、語尾など、必要な場所だけフェーダーを動かします。
曲の途中でフェーダーを動かす
最初に決めたフェーダー位置を曲中ずっと固定せず、聞こえ方に合わせて上下させます。
サビ全体を少し動かすこともあれば、一つの語尾だけを持ち上げることもあります。
大きな音量差を全部なくす処理ではない
オートメーションの目的は、ボーカルの強弱をすべて同じにすることではありません。
強く歌う場所と弱く歌う場所の差が、そのまま表現になっていることもあります。
残したい強弱はそのままにして、ミックスの中で不自然に沈む場所や飛び出す場所だけを動かします。
ミックスの中で必要な位置へ声を置き続ける
同じボーカルでも、周囲で鳴っている楽器が変われば聞こえ方は変わります。
波形の大きさだけを見るのではなく、その瞬間のオケに対して声がどこに聞こえるかを基準にフェーダーを動かします。
コンプをかけてもボーカルの音量は完全には揃わない
コンプを深くかければ、ボーカル内部の音量差は小さくできます。
ただ、それだけで曲の中のすべての言葉がちょうどいい位置へ収まるわけではありません。
コンプは設定した条件に対して動く
Thresholdを設定できる一般的なコンプレッサーでは、入力信号が設定したレベルを超えた時に、RatioやAttack、Releaseなどに応じて圧縮が行われます。
コンプ自身が「この単語だけもう少し聞かせたい」と曲の文脈を判断して動いているわけではありません。
信号のダイナミクスを整える処理と、ミックスの中で声をどこへ置くかは分けて考えます。
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小さい語尾まで必ず前へ出るわけではない
フレーズの語尾で声量が落ちると、コンプを通した後でもその部分だけオケへ沈むことがあります。
全体のレベルを上げれば語尾も大きくなりますが、それと一緒にすでに十分聞こえていた部分まで前へ出ます。
語尾だけが問題なら、その場所だけを動かした方が他のフレーズを変えずに済みます。
曲のアレンジが変われば必要な音量も変わる
同じ声量で歌っていても、バックで鳴る楽器が増えればボーカルは相対的に埋もれやすくなります。
逆に、オケが薄くなった場所では、それまで自然だったボーカルが急に大きく感じることがあります。
この変化は、ボーカルトラック単体のダイナミクスだけでは決まりません。
Aメロとサビでは同じフェーダー位置でも聞こえ方が変わる
ボーカルのフェーダーを固定したままでも、曲が進むにつれて声の位置は変わって聞こえます。
特にAメロとサビでは、オケの密度や帯域の使われ方が大きく変わることがあります。
オケの密度が変わる
Aメロでは音数が少なく、サビでギターやシンセ、コーラスが一気に増える曲があります。
ボーカルのフェーダー位置が同じでも、周囲の音が増えれば声の見え方は変わります。
楽器の音量や帯域が変わる
音数が増えなくても、サビでギターの歪みが強くなったり、シンセの中高域が増えたりすれば、ボーカルと重なる成分も増えます。
その結果、ボーカル自体のレベルが変わっていなくても、言葉が奥へ入ったように聞こえることがあります。
ボーカル自体が大きくても埋もれることがある
フェーダーを上げれば必ず前へ出るとは限りません。
オケと同じ帯域が強く重なっていれば、音量を上げても声の輪郭が見えにくいことがあります。
その場合はオートメーションだけで追わず、オケ側の音量や帯域も確認します。
語尾や小さい言葉はコンプだけでは残らないことがある
ボーカル全体は安定しているのに、語尾や短い言葉だけ聞こえなくなることがあります。
そこでコンプをさらに深くすると、すでに自然だった部分まで変わります。
語尾だけ沈む
フレーズの最後で声量が落ちると、その部分だけオケの中へ沈むことがあります。
前半の声量がちょうどいいなら、曲全体の圧縮を強くするより、沈んだ語尾だけ少し上げられます。
短い単語だけ抜ける
歌詞の中には、一瞬だけ弱く発音される言葉や、オケの強い音と重なる単語があります。
その場所だけ聞こえないなら、必要な区間だけフェーダーを動かします。
コンプを深くすると他の部分まで変わる
一部の語尾を聞かせるために圧縮量を増やすと、強く歌ったフレーズの動きまで小さくなります。
声の表情まで変わり始めたら、コンプだけで全部を揃える必要があるのかを見直します。
フェーダーオートメーションで必要な場所だけ動かす
オートメーションの利点は、問題のある場所だけを動かせることです。
一曲を通して同じ補正をかける必要はありません。
聞こえない語尾だけ少し上げる
語尾だけオケへ沈むなら、その区間だけフェーダーを少し上げます。
前半の言葉がちょうどよければ、そこまで一緒に持ち上げる必要はありません。
飛び出す単語だけ少し下げる
反対に、一つの単語だけ急に大きく聞こえるなら、その場所だけ下げられます。
コンプの設定を変える前に、問題が曲全体なのか一部分だけなのかを分けます。
曲全体へ同じ補正をかけなくていい
一か所だけ1〜2dB動かせば済む場面で、トラック全体の設定を変える必要はありません。
必要な量は声やオケによって変わるので、数字を先に決めず、周囲と自然につながる位置まで動かします。
セクション単位でボーカル音量を変えていい
オートメーションは一語ずつ細かく書くだけでなく、Aメロやサビなどセクション全体のバランスにも使えます。
曲の展開が変われば、同じボーカルでも必要な位置は変わります。
Aメロとサビで位置を変える
Aメロでは自然だった位置が、サビへ入った瞬間に埋もれるなら、サビ側のボーカルレベルを少し変える方法があります。
反対に、サビで歌そのものが十分強くなっているなら、フェーダーを動かさなくても成立します。
静かな場所では下げることもある
オケが急に薄くなる場所では、それまでのボーカルレベルが大きすぎることがあります。
静かなセクションだけ少し下げ、曲の中での距離感を合わせることもできます。
サビだから必ず上げるわけではない
サビではボーカルを何dB上げる、と固定する必要はありません。
歌い方、オケの密度、EQやコンプの状態によって、必要な変化は違います。
セクション名ではなく、その場所で声がどう聞こえているかを基準にします。
クリップゲインとオートメーションの違い
クリップゲインとフェーダーオートメーションは、どちらも音量を変えられます。
ただ、どの段階の音量を変えるかで役割が分かれます。
クリップゲインは処理前の入力レベルを整える
多くのDAWでは、クリップゲインでオーディオクリップ自体のレベルを変えられます。
極端に大きい一音や小さいフレーズを、コンプなどへ入る前に整える時に使えます。
その段階で入力レベルが変われば、後ろにあるコンプレッサーの反応も変わります。
フェーダーオートメーションはミックス上の位置を動かす
フェーダーオートメーションは、処理されたボーカルを曲の中でどの音量へ置くかを調整するために使えます。
サビ全体の位置や、聞こえにくい語尾など、オケとの関係で変わる部分を動かします。
両方を使うこともある
極端な音量差をクリップゲインで先に整え、コンプを通した後に残った聞こえ方の差をフェーダーオートメーションで調整する方法もあります。
どちらか一つへ全部を任せる必要はありません。
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コンプの前にやるか後にやるか
音量を動かす処理でも、コンプの前で動かすか後で動かすかによって結果は変わります。
何を変えたいのかで位置を分けます。
クリップゲインはコンプ前のレベルを整えられる
コンプへ入る前の一部だけ極端に大きいなら、クリップゲインで先に下げられます。
反対に小さすぎる部分を少し上げれば、コンプレッサーへ入る信号の差を小さくできます。
フェーダーオートメーションは最終バランス側で使うことが多い
一般的なDAWでは、チャンネルフェーダーがInsert Effectより後段に置かれる構成が多く、処理後のボーカルレベルを動かす用途に使えます。
EQやコンプで音色とダイナミクスを整えた後、ミックスの中で聞こえる位置をフェーダーオートメーションで仕上げる流れです。
DAWやルーティングによって位置は変わる
すべてのDAWやルーティングが同じ信号経路とは限りません。
フェーダー、Insert、Sendの位置によって後段への影響も変わるため、必要なら使っているDAWの信号経路を確認します。
コンプを深くする前にオートメーションを考える
一部の言葉が聞こえない時、コンプをさらに強くすれば音量差は小さくできます。
ただ、その一か所のために曲全体のダイナミクスまで変える必要があるとは限りません。
語尾を出すためだけに圧縮を強くしない
語尾だけが沈んでいるなら、その場所だけオートメーションで上げられます。
すでに自然に聞こえている母音や強いフレーズまで追加で圧縮する必要はありません。
強いフレーズを全部潰さない
強く歌った場所には、その強さを残したい場合があります。
音量差をなくすことだけを目的にコンプを深くすると、歌の動きまで小さくなります。
コンプとオートメーションの役割を分ける
コンプではピークやダイナミクス、声の密度を整えます。
その後に残った「この言葉だけ聞こえない」「このセクションだけ前へ出すぎる」という差は、フェーダーオートメーションで動かせます。
ボーカルオートメーションはどこまで細かく書く?
オートメーションを使えるからといって、最初から一音ずつ全部動かす必要はありません。
まず曲全体の流れを確認し、それでも残る場所だけ細かくしていきます。
最初から一音ずつ触らない
曲全体を細かく動かし始めると、どこが本当に問題だったのか分かりにくくなります。
まずフェーダーを固定した状態で通して聴き、大きく位置が変わる場所を探します。
まずセクション単位で聴く
Aメロ、Bメロ、サビなどで、ボーカルの位置が大きく変わっていないかを確認します。
セクション単位で整えるだけで成立するなら、細かなオートメーションを増やす必要はありません。
次に語尾や単語だけ直す
大きな流れを整えた後で、聞こえなくなる語尾や飛び出す単語を個別に動かします。
曲全体の位置と細かな言葉を分けて調整すると、必要以上にフェーダーを動かさずに済みます。
問題がない場所は触らない
すでに自然に聞こえている場所まで動かす必要はありません。
オートメーションの線を細かくすること自体を目的にしません。
ブレスや歯擦音はフェーダーだけで追わない
ボーカルトラックには、歌そのものだけでなくブレスや歯擦音も入っています。
これらも音量オートメーションで動かせますが、問題の種類によって別の処理へ分けた方が自然なことがあります。
ブレスは必要なら個別に下げる
一部のブレスだけ極端に大きいなら、その場所だけクリップゲインやオートメーションで下げられます。
すべてのブレスを消すのではなく、歌の流れから飛び出すところだけを調整します。
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歯擦音はディエッサーの役割もある
サ行など特定の高域だけが瞬間的に強いなら、フェーダーで一語ずつ追う以外にディエッサーを使う方法があります。
歯擦音とボーカル全体の音量差は分けて考えます。
何でもフェーダーへまとめない
語尾、歯擦音、ブレス、セクションの音量差では、それぞれ起きていることが違います。
全部を一つの方法で直そうとせず、問題に合う処理へ分けます。
オートメーションを書きすぎると不自然になることもある
ボーカルの音量を細かく揃えていけば、一語ごとのレベル差は小さくできます。
ただ、歌の強弱まで均一にすると、もともとあった表現が弱くなることがあります。
歌の強弱まで消える
静かに歌った言葉と強く張った言葉を同じ位置まで揃えると、歌い方の差も小さくなります。
聞こえにくいことと、意図的に弱く歌われていることは分けます。
全部同じ音量にすると平坦になる
一語ごとのレベルが揃っていても、それが曲として自然とは限りません。
サビで強くなる、語尾で少し引くといった動きまで消すと、ボーカルが平坦に聞こえることがあります。
表現として残すダイナミクスもある
ミックスで整えるのは、歌の強弱そのものを消すためではありません。
歌い手が作った動きを残しながら、オケに隠れて言葉が聞こえなくなる場所や、不自然に飛び出す場所だけを戻します。
オケを動かした方がいい場合もある
ボーカルが聞こえないたびにフェーダーを上げ続けると、最終的に声だけが大きくなることがあります。
原因が周囲の楽器にあるなら、オケ側を動かす方法もあります。
ボーカルだけ上げ続けない
サビでボーカルが埋もれた時に、声を少し上げれば聞こえ方が改善することがあります。
それでもさらに上げないと輪郭が出ないなら、音量以外の原因も確認します。
ギターやシンセを下げる方法もある
特定のセクションだけギターやシンセが大きくなり、ボーカルへ重なっているなら、その楽器側を少し下げる方法があります。
ボーカルを持ち上げるだけでなく、周囲を少し空けることで声の位置を作れます。
セクション全体のバランスとして考える
ボーカルオートメーションは、ボーカルトラックだけを単独で完成させる作業ではありません。
そのセクションで何が前にあり、何が後ろにあるのかを聴き、必要ならボーカルとオケの両方を動かします。
ボーカルオートメーションの基本的な進め方
ボーカルオートメーションは、最初から細かな線を書くより、曲全体から小さな部分へ進めると変化を追いやすくなります。
僕は、だいたい次の順番で確認しています。
- まずフェーダーでボーカル全体の基準音量を決める
- 必要ならコンプで大きなダイナミクスを整える
- 曲を最初から通して聴く
- Aメロ、Bメロ、サビなどセクションごとの位置を確認する
- 聞こえにくい語尾や単語だけ少し上げる
- 飛び出す言葉だけ少し下げる
- 極端な一音ならクリップゲインで処理前の差を整える
- ブレスや歯擦音は別の処理が必要か分ける
- ボーカルだけでなく、必要ならオケ側の音量も動かす
- 最後に歌の強弱や表現が残っているか確認する
コンプは、ボーカルのダイナミクスを整えるために使えます。
それでも曲の中では、セクション、語尾、周囲の楽器によって声の位置が変わります。そこをフェーダーオートメーションで必要な分だけ動かすと、コンプを深くしすぎず、歌の強弱を残したままボーカルの位置を整えられます。
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