ボーカルにディレイを使うと、声の輪郭を残したまま奥行きや広がりを足せます。
リバーブでも空間は作れますが、量やDecayを増やすほど声が後ろへ下がって聞こえることがあります。
ディレイはDry Vocalから時間をずらして反復音を置けるため、元の声を前に残しながら、その後ろへ空間を作れます。
僕はリバーブの代用品としてではなく、反復音をどこへ置くかを決める処理として使っています。
目次
ボーカルにディレイを使う理由
ボーカルディレイは、単純に「やまびこ」を作るためだけの処理ではありません。
短い反復で声へ厚みを足したり、長い反復を歌詞の隙間へ置いたり、左右へ動かして広がりを作ったりできます。
声を前に残したまま空間を足せる
ディレイは、元のボーカルとは別の時間に反復音を鳴らせます。
Dry Vocalの立ち上がりをそのまま残し、その後ろへ遅れて音を足せるため、声全体を残響で包むのとは違う空間を作れます。
反復音で奥行きや広がりを作れる
同じ声が少し遅れて返ると、一本のボーカルだけではなかった距離や厚みが加わります。
左右でDelay Timeを変えたり、Ping Pong Delayで反復を動かしたりすれば、センターの声を残したまま横方向へ広げることもできます。
リバーブより輪郭を残しやすい場合がある
リバーブは反射音が密集して残るため、量を増やすと声の周囲が残響で埋まりやすくなります。
ディレイは反復する時間を分けられるので、Dry VocalとEffectを時間的に離しやすくなります。
ただし、Send量やFeedbackを増やしすぎれば、ディレイでも声の輪郭は埋もれます。
ディレイとリバーブの違い
ディレイとリバーブは、どちらも元の音の後ろへ成分を足す処理です。
大きく違うのは、反射の密度と時間の聞こえ方です。
ディレイは反復音として聞こえる
ディレイでは、元のボーカルから一定時間遅れて音が返ってきます。
短ければ元の声と一体になって厚みとして聞こえ、長くすれば独立した反復として聞き取りやすくなります。
リバーブは細かな反射が連続して空間になる
リバーブでは、多数の反射が密集して一つの残響として聞こえます。
一つずつの反復を追うというより、声がどんな空間に置かれているかという印象を作ります。
リバーブでボーカルが遠くなる原因はこちら👇
DTM DRIVER!
ボーカルにリバーブをかけると遠くなる原因|前に残す設定の考え方 | DTM DRIVER!
ボーカルにリバーブをかけると遠くなる原因を、Send量、Wet量、Pre Delay、Decay、Return EQ、Early Reflectionsから整理します。声を前に残したまま空間を作る考え方をま…
どちらも距離感を作れるが聞こえ方は違う
リバーブでもディレイでも、Dry Vocalの後ろへ音が加われば距離感は変わります。
リバーブは空間の密度を作りやすく、ディレイは反復する位置や時間を狙って置きやすいという違いがあります。
リバーブよりディレイの方が声を前に残せることがある
ボーカルへ空間を足したいのに、リバーブを増やすと声まで遠くなることがあります。
そんな時は、空間のすべてをリバーブへ任せず、一部をディレイへ分ける方法があります。
Dry Vocalと反復音を時間的に分けられる
Delay Timeを取れば、Dry Vocalが鳴った直後ではなく、少し後ろへEffectを置けます。
声の立ち上がりと反復音が同じ場所へ密集しないため、元の言葉を前へ残しやすくなります。
声の周囲を常に残響で埋めなくていい
長いリバーブでは、前の言葉の残響が次の言葉まで続くことがあります。
ディレイなら、反復する時間と回数を調整し、歌詞の隙間へEffectを置くこともできます。
Send量を増やしすぎればディレイでも遠くなる
ディレイを使えば必ず声が前に残るわけではありません。
反復音が大きすぎたり、Feedbackが多くて常に音が残っていたりすれば、Dry Vocalとの境界は弱くなります。
声を前へ残したい時は、Delay Timeだけでなく、Send量とFeedbackも一緒に調整します。
まず短いディレイと長いディレイを分ける
ボーカルディレイは、Delay Timeが変わると役割も変わります。
短いディレイは元の声と一体になりやすく、長くすると反復そのものが聞こえるようになります。
短いDelayは厚みや距離感を作る
短いDelayでは、反復が独立した言葉として聞こえる前にDry Vocalへ重なります。
設定によっては、一本の声が少し厚くなったように聞こえたり、近い反射が加わったような距離感を作れたりします。
長いDelayは反復として聞かせる
Delay Timeを長くすると、元の言葉と反復音を別々に聞き取りやすくなります。
語尾へ反復を残したり、歌詞の隙間へもう一つのフレーズのように返したりできます。
時間が変わると役割も変わる
短い時には厚みとして聞こえていたDelayも、時間を伸ばすと二つの声として分離してきます。
何msが正しいかではなく、元の声と一体にしたいのか、反復として聞かせたいのかで方向を決めます。
Slapback Delayは声へ厚みを足せる
短いボーカルディレイとして使われるものにSlapback Delayがあります。
一回または少ない回数の短い反復を加え、元の声へ厚みや独特の距離感を足す使い方です。
70〜150ms前後が目安になることがある
Slapbackでは、70〜150ms前後の短いDelay Timeが使われることがあります。
ただ、この範囲なら必ず自然になるわけではありません。
元の声からどのくらい離れて聞こえるかを確認しながら時間を動かします。
Feedbackを少なくすると反復を短くできる
Feedbackを少なくすると、反復は早く消えます。
厚みとして使うなら、何度も尾を引かせるより、一回から少ない回数で終わらせた方が元の声とまとまることがあります。
長くしすぎると別の声として聞こえる
Delay Timeを伸ばすほど、元の発音と反復の間がはっきりしてきます。
厚みを作りたいのに別の声として聞こえ始めたら、時間を短く戻します。
テンポ同期ディレイを使う方法
長めのボーカルディレイでは、曲のテンポへ同期させる方法があります。
1/4、1/8、付点8分などを選ぶと、反復の位置を曲のリズムへ合わせられます。
1/4 Delay
1/4 Delayは、四分音符の間隔で反復します。
反復の間隔を取りやすいため、歌詞の後ろへはっきりしたDelayを置く時に使えます。
ただ、次の歌詞がすぐ始まる場所では、その反復が言葉へ重なることもあります。
1/8 Delay
1/8 Delayは四分音符より短い間隔で返るため、反復が細かくなります。
歌の近くで何度も返りやすいので、FeedbackやSend量が多いと声の周囲が混みやすくなります。
Dotted 1/8など付点ディレイ
付点8分Delayでは、通常の8分音符とは違う位置へ反復が入ります。
元のフレーズとずれたリズムで返るため、Delay自体が曲の動きとして聞こえることがあります。
曲のテンポと歌詞の隙間で選ぶ
1/4ならこのジャンル、1/8ならこの曲調という形では固定しません。
同じテンポでも、歌詞の詰まり方やフレーズの長さは違います。
反復が次の言葉へぶつかるのか、空いているところへ入るのかを聴いて選びます。
ディレイタイムは数字より歌との重なりで決める
テンポ同期を使えば、Delay Timeは簡単に曲へ合わせられます。
ただ、テンポへ正確に同期していることと、ボーカルへ自然に入ることは同じではありません。
次の言葉へ被っていないか
一つ前の言葉のDelayが次の歌詞へ大きく重なると、発音が聞き取りにくくなることがあります。
反復自体は気持ちよくても、歌詞を邪魔しているならTimeやFeedbackを見直します。
語尾の空間へ入っているか
フレーズの後ろに空きがあるなら、そこへDelayを返すことで、Dry Vocalを邪魔せず反復を聞かせられます。
語尾と次の歌詞の間にどれだけ時間があるかで、合うDelay Timeも変わります。
テンポ同期でも邪魔なら変える
テンポへ正確に同期していても、言葉とぶつかれば使いにくいことがあります。
別の音符へ変えたり、同期を外してms単位で動かしたりして、歌が自然に聞こえる位置を探します。
Feedbackは反復の残り方を決める
Feedbackは、Delayの出力を再び入力側へ戻し、反復をどのくらい続けるかを決めるパラメータです。
Send量やWet量のようにDelay全体のレベルを直接決めるパラメータではなく、主に反復がどのくらい続くかを決めます。
少ないと反復が早く消える
Feedbackを低くすると、反復は少ない回数で消えていきます。
語尾へ一度だけ返したい時や、Slapbackのように短く使いたい時は、少ないFeedbackから合わせます。
増やすと反復が長く残る
Feedbackを増やすと、返ってきたDelayがさらに入力へ戻り、反復が長く続きます。
反復そのものを演出として聞かせる時には使えますが、歌が続いている間も音が残りやすくなります。
上げすぎると次の言葉へ重なる
Feedbackが多いと、前のフレーズのDelayが次の歌詞まで残ります。
ボーカルが聞き取りにくくなったら、Send量だけでなくFeedbackも減らし、反復の残る時間を短くします。
Send量とWet量はどこまで上げる?
ボーカルディレイは、AuxやFXチャンネルへSendして使う方法がよく使われます。
この方法ならDry Vocalは元のトラックから鳴らし、別のReturnからDelayだけを足せます。
Send方式ならReturnは100%Wetが基本
Send先のReturnでDelayを使う場合は、Effect側を100%Wetにして、Dry Vocalは元のトラックへ任せる形が基本です。
Return側にもDryを残すと、元のボーカルまで重なり、音量や位相関係が変わることがあります。
Send量でディレイの聞こえる量を決める
Delayの量は、Send量やReturnフェーダーで調整できます。
Dry Vocalの音量を決めてから少しずつ足していくと、どこから反復が目立ち始めるかを追えます。
はっきり聞こえなくても空間は変わる
Delayは、反復音をはっきり聞き取れるところまで上げなくても使えます。
バイパスすると少し平たくなり、戻すと奥行きが増えるくらいの量でも成立します。
エフェクトとして聞かせるなら量を増やす
語尾の反復やDelay Throwを明確に聞かせたいなら、Effectの量を大きくすることもあります。
常時薄く使うDelayと、演出として前へ出すDelayでは、必要な量は変わります。
ディレイ音のEQでボーカルとの重なりを減らす
Delay Returnをフルレンジのまま返すと、Dry Vocalと近い音色が何度も重なります。
反復が邪魔なら、Delay側のEQで帯域を整理すると、元の声との役割を分けられます。
Low Cutで低域を整理する
Delayへ低域まで多く残すと、声の下側も反復するたびに重なります。
必要のない低域をReturn側で減らすと、反復音を軽くできます。
High Cutで明るさを抑える
Dry Vocalと同じ明るさのDelayが何度も返ると、子音や高域が目立つことがあります。
High Cutなどで高域を減らし、反復だけを少し暗くする方法があります。
Dry Vocalより暗くすると後ろへ置きやすい
Delay Returnの上下を少し狭くすると、Dry Vocalとの音色差ができます。
元の声より暗く細い反復にすると、センターのボーカルを邪魔せず後ろへ置けることがあります。
歯擦音が反復するなら高域側を見る
元のボーカルに強い歯擦音が残っていると、その成分もDelayで繰り返されます。
Delay Returnの高域を整理したり、必要ならEffectへ入る前に歯擦音を抑えたりすると、反復だけが刺さる状態を減らせます。
ステレオディレイで左右へ広げる
Delayは奥行きだけでなく、横方向の広がりにも使えます。
ここではDry Vocalそのものを広げるのではなく、Delay Returnを左右へ置く方法として考えます。
左右で時間を変える
左右へ違うDelay Timeを設定すると、反復が同じ位置へ重ならなくなります。
Dry Vocalをセンターに残したまま、Effect側だけを左右へ広げられます。
Ping Pong Delayを使う
Ping Pong Delayでは、反復を左右へ交互に動かせます。
反復そのものを聞かせる時には、左右の動きもEffectの一部になります。
センターのDry Vocalは残す
メインボーカルの芯を中央へ残したいなら、Dry Vocalまで大きく広げる必要はありません。
センターに元の声を置き、Delay Returnだけを左右へ広げる方法があります。
センターを残したままボーカルを左右へ広げる方法はこちら👇
DTM DRIVER!
ボーカルを左右に広げる方法|センターを残したまま幅を出す | DTM DRIVER!
ボーカルを左右に広げる方法を、ダブリング、短いDelay、Micro Pitch、Doubler、Chorus、Reverb、M/S処理まで整理します。メインをセンターに残したまま幅を作る考え方をま…
広げすぎると注意が左右へ散る
左右のDelayが大きすぎると、メインボーカルより反復へ耳が向くことがあります。
広がりを作るために使うなら、Effectそのものが主役になっていないかも確認します。
ディレイが邪魔になる時はDuckingも使える
Delayを聞かせたいのに、歌っている間まで反復が残ると、言葉が重なって聞き取りにくくなることがあります。
この時は、ボーカルが鳴っている間だけDelayを抑え、声が止まったところで反復を戻すDuckingを使えます。
歌っている間はディレイを下げる
Dry Vocalが鳴っている時にDelay Returnを下げると、言葉の輪郭を残せます。
反復は鳴っていても、メインの発音へ大きく重ならないようにできます。
語尾でディレイを出す
ボーカルが止まるとDuckingが解除され、Delayが前へ出てきます。
歌っている最中はすっきりさせながら、フレーズの後ろでは反復を聞かせられます。
声の輪郭を残したまま反復を聞かせる
単純にSend量を下げると、語尾で欲しかったDelayまで小さくなります。
Duckingなら、歌っている時と空いている時でEffectの出方を変えられます。
オートメーションで一部だけディレイを出す
ボーカルディレイは、曲中ずっと同じ量で使う必要はありません。
特定の語尾や単語だけSendを上げ、その場所だけ反復させる方法もあります。
語尾だけSendを上げる
フレーズの最後だけDelayへ送れば、歌っている途中はDry Vocalをすっきり残せます。
語尾の後ろに空間がある場所だけ反復させれば、次の言葉ともぶつかりにくくなります。
特定の単語だけ飛ばす
歌詞の中で印象を残したい単語だけDelayへ送り、反復を演出として使うこともできます。
こうした使い方はDelay Throwと呼ばれることがあります。
曲中ずっと同じ量にしなくていい
Aメロではほとんど使わず、サビだけ少し増やすこともできます。
Effect量を固定せず、曲の密度や歌詞の隙間に合わせて動かす方法もあります。
ディレイとリバーブはどちらか一つではない
ボーカルへディレイを使っていても、リバーブを併用できます。
二つは同じ動きをする処理ではないので、必要な役割を分けて使えます。
短いReverbとDelayを組み合わせる
短いReverbで声の周囲に空間を作り、その後ろへDelayを足す方法があります。
リバーブだけを長くするより、残響と反復へ役割を分けられます。
Delayだけで空間を作ることもできる
リバーブをほとんど使わず、短いDelayやテンポ同期Delayを中心に空間を作ることもできます。
声の輪郭をはっきり残したい曲では、この方が合うこともあります。
曲によって役割を分ける
リバーブは反射が密集した空間を作り、ディレイは反復する時間を作ります。
どちらか一方を正解にせず、その曲で必要な距離、広がり、反復に合わせて使い分けます。
ボーカルディレイの基本的な合わせ方
ディレイは、Time、Feedback、Send量を一度に動かすと、どこが邪魔なのか分かりにくくなります。
僕は、だいたい次の順番で合わせています。
- Dry Vocalだけで基本の音量を決める
- DelayをSendで立ち上げる
- 短いDelayかテンポ同期Delayか、使う役割を決める
- Delay Timeを歌詞の隙間に合わせる
- Feedbackを必要な長さまで調整する
- Send量を少しずつ足す
- Delay Returnの低域や高域を整理する
- 次の歌詞へ重なるならTimeやFeedbackを見直す
- 必要ならDuckingやオートメーションでDelayが出る場所を限定する
- 最後にReverbと一緒に鳴らし、Dry Vocalの輪郭が残っているか確認する
ディレイは、リバーブの代わりとして使うだけの処理ではありません。
Dry Vocalと反復音を時間的に分け、声の後ろへ必要な成分を置けます。歌詞の隙間、反復の長さ、Effectの音色まで整えると、声の輪郭を残したまま奥行きや広がりを作れます。
ボーカルミックス全体の流れと基本はこちら👇
DTM DRIVER!
ボーカルミックスのやり方|録音した声をオケに馴染ませる基本 | DTM DRIVER!
ボーカルミックスの基本を、音量、EQ、コンプ、ディエッサー、リバーブ、ディレイ、オートメーションまで順番に整理します。録音した声が埋もれる・浮く時に、何を確認して…