ミックスで位相ずれが問題になるのは、複数の似た信号を重ねた時に、必要な帯域や音量まで打ち消し合っている場合です。
位相差そのものが悪いわけではありません。時間差や位相差は、音色、奥行き、広がりの一部になることもあります。
音を重ねた時だけ細くなる、低域が減る、モノラルにした時に大きく音色が変わるなら、どの信号同士で変化しているかを確認します。
目次
ミックスの位相ずれとは?
位相は、周期を持つ波形が一周期のどの位置にあるかを表します。
似た信号を複数重ねた時に、それぞれの時間位置や位相が違うと、合成された音も変わります。
同じ方向へ重なる成分は強くなり、ずれ方によっては一部の成分が弱くなります。
ミックスでは、位相差があるかどうかだけではなく、その結果として必要な低域、アタック、音色が崩れていないかを見ます。
位相がずれると何が起きる?
時間差のある似た信号を重ねると、すべての周波数が同じように変わるわけではありません。
周波数ごとに位相関係が変わるため、強くなる帯域と弱くなる帯域が生まれます。
周波数によって強め合ったり打ち消し合ったりする
似た信号の片方が少し遅れて重なると、その時間差によって周波数ごとの位相関係が変わります。
ある帯域では強め合い、別の帯域では打ち消し合うため、元の信号とは違う周波数バランスになります。
短い時間差を持つ信号を重ねた時に、周波数特性へ規則的な山と谷ができる状態はコムフィルタリングと呼ばれます。
音が細い・低域が減る・輪郭が変わることがある
どの帯域が打ち消されるかによって、聴こえ方も変わります。
低域が弱くなれば音が軽く感じられ、中域やアタック周辺が変われば、音の芯や輪郭も変わります。
ただし、音が細いからといって位相ずれとは限りません。EQ、元の音源、録音位置、音量バランスでも似た結果は起こります。
位相を疑う時は、一つずつでは問題がなく、複数の信号を重ねた時に音が変わっているかを確認します。
位相ずれは複数の似た信号が重なる時に確認する
位相を確認する場面は、同じ音源を複数の経路で扱っている時です。
複数マイク、DIとアンプ、複製したトラック、時間差や位相差を使うステレオ処理などでは、似た成分が少しずれた状態で重なります。
複数マイクで同じ音を録った時
一つの音源を複数のマイクで録ると、音源から各マイクまでの距離が違うため、同じ音がそれぞれ少し違う時間で届きます。
その信号を重ねると、時間差によって周波数バランスが変わります。
二本を重ねた時だけ低域が減る、音の芯が薄くなるなら、マイク同士の時間差や極性を確認します。
同じ信号を複製して時間をずらした時
同じトラックを複製し、片方だけ短く遅らせると、厚みや左右の広がりを作れます。
一方で、元の信号と遅れた信号を同じ出力へ重ねるとコムフィルタリングが起こり、音色が変わります。
特にモノラルへまとめた時に音が大きく痩せるなら、時間差を使っている処理を確認します。
DIとアンプ録音を重ねた時
ベースやギターでDI信号とアンプをマイク録音した信号を重ねる場合も、二つの時間位置は同じとは限りません。
アンプ側はスピーカーからマイクまで音が移動する時間があり、経路によっては機器やプラグインの遅延も加わります。
片方ずつでは十分な低域があるのに、重ねた時だけ痩せるなら、時間位置や極性を確認します。
ステレオ処理やコーラスを使った時
コーラス、ショートディレイ、一部のステレオ処理では、時間差や位相差を使って広がりを作ります。
ステレオでは狙った広がりになっていても、左右をモノラルへまとめると音量や音色が大きく変わることがあります。
こうした処理は、広がりだけでなくモノラル時の変化も合わせて確認します。
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ドラム録音ではマイク同士の関係を見る
ドラムは、一つの演奏を複数のマイクで同時に拾うため、位相や極性を確認する場面が多い録音です。
近接マイクだけでなく、オーバーヘッドやルームにも同じドラムの音が入ります。各マイクまでの距離が違うため、届く時間も変わります。
スネアの上下マイク
スネアを上と下から録る場合は、ヘッドの動きを反対側から拾うため、重ねた時に極性関係を確認します。
二本を足した時にスネアの芯や低域が弱くなるなら、片方の極性を反転し、どちらの状態で必要な音が残るかを比較します。
キックの複数マイク
キックの内側と外側、キック用マイクとサブキックなどを重ねる場合も、マイク位置による時間差があります。
単体では十分な低域があるのに、二本を重ねた時だけ細くなるなら、時間位置と極性を確認します。
オーバーヘッドと近接マイク
オーバーヘッドには、シンバルだけでなくスネア、キック、タムなどの音も入っています。
近接マイクとは各音源までの距離が違うため、同じ打音でも到達時間に差があります。
近接マイクを足した時に低域やアタックが不自然に変わるなら、オーバーヘッドとの重なり方も確認します。
波形を完全にそろえることを目的にしない
DAW上で波形を拡大すると、マイクごとの時間差を確認できます。
ただし、波形の山を完全に一致させれば必ず良くなるわけではありません。
マイク位置による時間差も、その録り音の音色や奥行きに関わります。位置を動かした時に低域、アタック、胴鳴り、空間がどう変わるかを聴いて決めます。
DIとアンプ録音を重ねる時も位相を見る
DIとアンプ録音では、片方ずつの音だけでなく、二つを足した時の変化を確認します。
DIは直接電気信号として録音されますが、アンプ側はスピーカーから出た音をマイクで受けるため、マイクまでの距離による時間差があります。
距離や処理で時間差が生まれる
アンプ録音では、スピーカーからマイクまでの距離による遅れがあります。
さらにアンプシミュレーター、プラグイン、外部機器などを別経路で使っているなら、その経路で時間位置が変わっていないかも確認します。
低域が痩せるなら時間位置を動かして比較する
DIとアンプを同時に鳴らした時だけ低域が減るなら、片方の時間位置を少し動かして比較します。
位置を動かすと周波数ごとの重なり方も変わるため、低域や中域、アタックの残り方を聴きながら決めます。
極性反転も比較し、どちらで必要な成分が残るかを確認します。
位相反転と位相ずれは同じではない
位相の話では、極性反転と時間差による位相ずれが同じものとして扱われることがあります。
どちらも複数の信号を重ねた結果へ影響しますが、起きていることは違います。
極性反転は信号の正負を反転する
極性反転では、信号の正負を反転します。
プラス側だった値はマイナス側へ、マイナス側だった値はプラス側へ変わります。
二つの信号の極性関係が合っていない時は、片方を反転することで合成後の低域や芯が大きく変わることがあります。
時間差による位相ずれは周波数ごとに結果が変わる
片方の信号が時間的にずれている場合は、周波数ごとに位相差が変わります。
そのため、片方の極性を反転するだけで、すべての帯域の重なりが良くなるとは限りません。
極性反転を試しても必要な音が戻らないなら、マイク位置やトラックの時間差まで確認します。
モノラルにすると位相問題を確認しやすい
ステレオでは左右へ分かれていた信号も、モノラルでは左右の信号が一つにまとめられます。
そのため、左右差を使った処理が加算された時に、音量や音色がどの程度変わるかを確認できます。
ステレオでは広がりに隠れていた変化を確認する
左右へ分かれている時は広がりとして聴こえていた差も、モノラルでは同じ出力へまとめられます。
そこで特定の音だけ大きく痩せるなら、その音に使っている時間差や位相差を確認します。
音量や音色が大きく変わる時は原因を探す
ステレオとモノラルで聴こえ方が少し変わること自体は問題ではありません。
低域が大きく減る、主要な音が急に細くなる、音色が大きく変わるなら、その音に使っているステレオ処理や複数信号の重ね方を確認します。
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位相メーターだけで判断しない
左右の関係を見るために、相関メーターやゴニオメーターを使う方法があります。
ただし、メーターの数値だけでミックスの良し悪しは決まりません。
相関メーターは補助として使う
一般的な相関メーターでは、+1に近いほど左右が似た状態、0付近では相関が低く、負方向では逆相成分が強いことを示します。
相関が低い場所や負方向へ振れる場所があれば、その部分を実際に聴き、モノラルへまとめた時に何が変わるかを確認します。
数値より音が崩れているかを見る
左右差の大きいステレオ音では、相関が低くなること自体があります。
数値を高くすることを目的にせず、モノラルで必要な音が残っているか、ステレオでは狙った広がりになっているかを確認します。
位相は全部そろえればいいわけではない
複数マイクやステレオ処理にある時間差や位相差を、すべてなくせば良いわけではありません。
その差が音色、奥行き、左右の広がりを作っていることもあります。
時間差は音色や広がりの一部にもなる
複数マイクではマイクまでの距離差が録り音に反映され、ステレオ処理では左右差そのものが広がりにつながります。
時間位置を完全にそろえると、その差によって生まれていた音色や空間まで変わります。
問題が出ている時に必要な分だけ直す
信号を重ねても必要な低域や輪郭が残り、狙った音になっているなら、位相差があるという理由だけで修正する必要はありません。
音が痩せる、必要な成分が消える、意図しない音色変化が起きている時に、その原因になっている信号同士の関係を調整します。
位相ずれを確認する順番
位相が原因か分からない時は、複数の信号を重ねる前後から確認します。
問題のトラックを特定する
まず、どの信号を足した時に低域や音色が変わるのかを確認します。
一つずつでは問題がなく、二つ以上を同時に鳴らした時だけ変わるなら、その組み合わせを見ます。
片方ずつミュートして比較する
複数マイクやDIとアンプを重ねているなら、片方ずつミュートして単体と合成後を比べます。
二つを足した時だけ必要な帯域が減るなら、時間差や極性を確認する材料になります。
モノラルにする
左右へ分けた信号やステレオ処理なら、モノラルへまとめて音量や音色の変化を確認します。
極性反転を試す
極性反転が使える場合は、片方を反転して重ねた結果を比較します。
反転した方が低域や芯が自然に残るなら、その状態も候補にします。
必要なら時間位置を調整する
極性反転だけでは必要な音が戻らず、時間差による打ち消しが大きいなら、片方のトラックの時間位置を少し動かして比較します。
波形の山を完全に合わせるのではなく、重ねた時に必要な低域、アタック、音色が残る位置を探します。
位相ずれは音が崩れている時に必要な分だけ直す
位相差は、存在するだけで修正対象になるものではありません。
複数の信号を重ねた時に音が細くなる。低域が減る。モノラルで主要な成分が大きく変わる。そうした結果が出た時に、どの信号同士で起きているかを確認します。
極性反転、時間位置、マイクの組み合わせ、ステレオ処理を順番に比較し、狙っている音を崩している部分だけを調整します。
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